君の名は希望

優馬くんの名前は希望と今 知った

連続ドラマW 「北斗-ある殺人者の回心-」

記事にするまでにずいぶん時間がかかってしまいました。
それくらい優馬くんのお仕事の中で、一番真剣に向き合った作品だったなあと思います。
こんな膨大な思いを受け取るドラマ初めてでした。
2016年の夏の優馬くんの全力が詰まっていた。
北斗として生きた優馬くん、本当にすごかった。
優馬くんに「俺のやりたいことはこれなんだ」って挑戦状叩きつけられたみたいな、生半可な気持ちじゃねえぞっていう覚悟を見せつけられたみたいな気がした。

私は大阪の試写会で見た北斗がいちばん最初だったのですが、しょっぱなから飛ばしてるなあと思わずにはいられなかった。そしてふたを開けてみれば最初だけでなく、最後まで容赦がなかった。
暴力や、殺人の描写なども一切妥協せずに、細かく描いていくスタンスが確かに今のドラマでは見ないなと思った。まるで映画のような濃厚さで、毎回一時間があっという間だった。
そして、何より絶妙な話数だなあと思った。
ドラマでいうと5話って決して長くないし、民放でいうとちょうど折り返し地点くらいだから、この分厚い原作を映像化するには足りないと思えるけど、これが絶妙にちょうどいいのが驚きだった。
限られた話数だからこそ無駄なシーンが一切なく、必要なシーンのみで構成されているので、最後まで緊張感の続くしっかりとした作品になっていた印象だった。
そして何よりこの話数に、ぎっしりと熱意が詰まっていたのがすごかった。監督の情熱とキャストスタッフがこれに全力で応えた掛け合いが、ちゃんと作品の熱として表れていた。本当に、画面からはみ出しそうなくらいの熱さに胸がチリチリと焼ける感覚だった。
同時に、これはWOWOWだから実現できたんだろうなとも思った。映画ではちょっと時間が足りないし、民放はこの熱量でできる場所ではないし、そう考えると適した場所だなあと思う。見てもらえる人は限られてくるだろうけど、でも見た人には確実に胸に刺さるクオリティーが出来たように思える。
そしてこの内容的にも、躊躇せず思いっきりできるのは今のテレビ業界ではWOWOWしかないんだと、だとしたらやはり特殊だし、唯一無二の場所だなあと納得できた。

ドラマの内容に対しては、原作に忠実だなと思った。
多少削っている描写だったり、登場人物もいるが、原作の満足度と差して変わらなかった。
キャストも本当に原作から出てきたみたいにピッタリで、私は特に綾子さんが大好きだった。
あの優しくて力強い声が、北斗くんって呼ぶ度に私まで嬉しくて、物語の中の唯一の光だった。
優馬くんが宮本さんの声が好きだって言ってた気持ちがすごく分かるし、「お母さん行かないで」って言っちゃう気持ちもすごく分かる。それくらいただ声を聞くだけで安心できる存在だった。
他にも、キャストそれぞれに存在感があったし、見どころがあって楽しめた。
優馬くんに関して言えば、正直言うと原作を最初に読んだとき、優馬くんのイメージはないなと思っていた。
全体的に薄い印象の、あまり雰囲気のない人。北斗くんにはそんな印象を持っていたので、優馬くんに合うのかなあと思っていたくらい。お顔も中性的で色白でどちかと言うと塩顔系の男の子ってイメージを思っていたし。
だけど、そういう次元じゃなかったなと後から申し訳なく思った。
優馬くんは合ってる合ってないじゃなくて、どれだけ自分のモノに出来るか向き合っていた。だからこそイメージは違くても、細かい描写や北斗くんがまとっている雰囲気がすごくリアルだった。
そこにリアリティーがあるから、他のイメージなんて勝手に付いてきた。もう今じゃ北斗くんは優馬くんの顔で思い出されるし、優馬くんの感情が読めなさそうな硬質な部分と、北斗くんの神経質で潔癖そうな部分がすごくマッチしていたなあと思えます。

物語の中で私が一番印象的だったのは、一話から二話への流れでした。一話での留置所の北斗くんはまったくと言っていいほど何も話さず、話したのはただ一言だけ「死刑にしてください。」のみ。感情の起伏と言えば「不幸な生い立ち」に触れられた時くらいで。そうやって一話は主人公の感情がまったく分からないまま終わっていく。そして二話からは徐々に情報も増えて行き、北斗くんがどんな子でどんなことを経験してきたのか、丁寧にゆっくりと描かれていく流れになっていた。私は、一話では「殺人を犯してしまった人」でしかなかった北斗くんの生い立ちを高井先生と辿っていき、どんどん人間らしい普通の人と変わらない北斗くんを知っていく流れがうまいなあと思った。二話で母に対して怒りをぶつけたり、綾子さんを試して泣いたりと、感情を露わにする北斗くんにすごく新鮮さを感じ、こんな表情するんだ、こうやって叫んだりするんだと驚いた。それくらい一話の北斗くんは静かで空っぽで。だからこそ二話での人間らしい北斗くんとの対比が大きくて面白いなと感じた。
また主人公はもちろん北斗くんだから、ほとんどが北斗くんの生い立ちや変化がメインで、途中まで見ているとどうしても北斗くんに肩入れしてしまう。不幸な偶然が重なっただけ、暴力の芽を植え付けたのは両親だ、とどうにか擁護したくなってしまう。だけど後半になり、裁判が始まるとハッとさせられるのだ。今までは北斗くん側から物語を追い、北斗くんが暴力の「被害者」のように見てきたが、まったく逆の物語も存在することに気付かされてしまう。北斗くんが奪った人生もまた存在していて、北斗くんは「加害者」なのだと気付いた瞬間、物語はとても複雑になる。北斗くんが奪った命を大切にしていた人たちがいる。北斗くんが綾子さんを大事にしていたように。
どうしようもないループに陥るところは原作と変わらないし、むしろ原作よりも密度が高く迫ってくるような気がした。

私には原作の結末は「希望」だと感じると、このブログに記した。
ドラマはまた少し違っていたように思う。
もっともっと人間の本質に迫ったような最終回だった気がしたからだ。

特に裁判が始まってからはそれがすごく顕著で。
1日目は、生きることを諦めたような人で、血が流れていないみたいな真っ白い顔をしている北斗くんが、日を追うごとに徐々に目に光を宿し始め、自分の中の感情に戸惑い苛つく姿が痛々しくて、でもこれは北斗くんが生きてる証なんだからと私も歯を食いしばって見守った。
そしてラストの意見陳述のシーン。
口に出していいのか、本当に言ってもいいのか、迷いながら高井先生を見つめた北斗くんの姿が印象的で。
何を言うのかと身構えたら、人間として当たり前の、ごく自然な「生きたい」という感情を、ポツポツと語り始めて。
「身体が生きようとするんです。」
「生きて罪を償いたい。」
北斗くんが嗚咽を噛み殺しながらもらした本音に、胸がギュッとなったと同時に「ああそうか、北斗くんはずっと生きたかったんだ」と思った。
だから家を飛び出した日も、自動販売機に縋ってしまったし、綾子さんが亡くなったあとも復讐のために生きたんだと腑に落ちた気がした。
「生まれて来なければよかった」「僕は悪魔の子だ」「事件を起こしてから死ぬことばかり考えていた」「死刑に値する人間だ」そうやって自分を否定し続け、存在価値を自ら排除してきた北斗くんだけど、心の奥底ではきっと誰よりも「生きたい」と望んでいたんだ。
そして、すべての人が持ってて当たり前の「生きたい」という願望を、今までずっと隠しながら生きてきたんだと気づいて、すごく悲しくなった。
北斗くんは「生きる」ことを権利だと知らずに生きてきたんだ。誰かに与えられるものだと思って、自分の意思で決められないと思って生きてきたんだ。
生きていることを後悔しながら生きてきたんだ。
それは、どれだけ苦しかっただろうか。
そんな北斗くんが、自分の命を賭けた裁判で初めて「生きたい」と口にした。
自分で「生きる」ことを選べた。
人間の本能的な、普通の人だったら持っていても気づかないくらい当たり前の単純な感情。
でも口にしたことで何かから解放されたような北斗くんの表情にはグッとくるものがありました。
そして今までタイトルバックが鮮明な赤だったのに、最終回だけ透明になっていたのもそういう意味があったのかなあと。
北斗くんが揺らぐことなく「生きたい」と自覚し変わったことで、「悪魔の血」という真っ赤な不純物が取り除かれて、ただただ透明な北斗くんの思いのほうが勝ったということの表れのような気がしました。
ドラマの方がそういう意味では明確なゴールを持っていたから、ズシンときたなあと思います。

そして最後は優馬くんについても。
この作品に優馬くんが主演として関われたことは、今後の優馬くんの俳優人生でも大きな強みになるだろうと確信しました。
演技が上手い下手とかの次元ではなく、端爪北斗として存在しようとしていた、本気で端爪北斗になろうとしていた。
一瞬でも中山優馬ではなくなっていた。
この経験はすごく大きなものになるだろうなあと。
これから演じる役にもぜんぶ、北斗くんは活きていくんだろうなあと思います。
最初の方にも言いましたが、演技が好きで、俳優をやりたいと常々言っている優馬くんの本気を見せられたような、彼の覚悟を感じました。
どんな俳優になっていくのか楽しみになったし、もっともっと色んな役と出会う優馬くんが見たいです。
WOWOWドラマがどれほどの人の目に止まっているかは分かりませんが、もしかしたらそんなに多くないかもしれないけど、見た人の中に優馬くんの印象が残って、次の仕事に繋がって欲しいなと強く思っています。
いや、絶対繋がる作品だと思っています。
だからこそ、また次優馬くんを映像作品で見るのがとても楽しみです。
優馬くんがまた次もこんな密度の高い作品に出会えますように。